hirogoal’s blog

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ノー・ディレクション・ホーム〜ボブ・ディラン25才


記者会見の場面では、どっかの雑誌の記事を読んだだけで会場に来ていた記者の質問に対し、辛辣に返答するディランのようすが描かれていた。しかし、彼は皮肉たっぷりで答える(というか逆質問だったのだが)だけではない。彼の人間性か、そのクールな笑顔で記者に素直に答えさせているのである。どの雑誌を読んでこれを質問したのかを!すげーと思ったよ。中田ヒデではこんな(不思議な)コミュニケーションは取れないだろう。いや、ヒデだけではない。難しい世界の話だ。
場違いな質問をしたと指摘されたような感じがしたのか、恥ずかしそうに素直に答える記者たち。しかしディランは小さな笑顔で「ふ〜ん」てな顔してる。これがホントの「クール」な男の表情だと思った。


今日は映画「ノー・ディレクション・ホーム」を渋谷のイメージフォーラムへ見に行った。午後6時45分から始まる最終回である。会場はおよそ50人ほどの観客。3時間以上の上映時間、途中10分間の休憩を挟むほどの長い伝記映画で、ボブ・ディランの生誕から25才、1966年のライブ活動一時停止までの様子を描いた内容だ。
印象的な場面は多い。フォークへの興味が醒めたというか、バンドを加えた演奏が曲により深みを与えると考え、新たにエレキギター、ドラムに大音量で演奏させるスタイルを取ったことに対し、今までのフォークのファンからは各会場でブーイングが起こっていた。じゃあ見に行かなくてもいいのにと思うのだが、彼のことは大好き、ただやっていることが嫌いなだけというファンが非常に多かったらしい。ひいきの引き倒しという言葉がこんなに似合う映像はなかなか見られない。そのブーイングに関する彼の発言は興味深かった。愛情から人を殺すこともあると冷静に答えているのだ。


今まで読んできた伝記や評論では見えにくかった彼の(おそらく)素直な表情、発言を多く見ることが出来るだけでも貴重な映画だ。エンターテイメントという世界の中で生き抜いていくための思い切りや、周りの状況と戦う強さの必要性がよく分かる。自分の好きなことをやり抜くことは難しい。けど言いたいことを主張することは大切なのだ。