hirogoal’s blog

本と音楽とサッカーのことを書いています。

日本映画デー(その2)〜美しい夏キリシマ

美しい夏 キリシマ [DVD]
その後、外出して神保町へ。偶然にも故深作監督と同い年の黒木和雄監督の作品”美しい夏キリシマ”を岩波ホールで見た。戦争によって市井の人たちの心へ刻み込まれた傷が美しい自然と強烈に対比され描かれる。そしてこれは監督の少年時代そのものを描いた映画だ。
柄本佑演じる少年、康夫が憲兵に罵倒された後のセリフ「あん憲兵は、いっそのこと、おいのことを殺してくれたらよかったとい」は衝撃だった。15才の彼は空襲で友人が目の前で死んでいくのを助けることができず逃げてしまったことに後悔の念を感じていた。それが原因で当時は肺浸潤(はいしんじゅん)と診断されたが、実はPTSD*1に近い病となり祖父のいる田舎へ疎開していたのである。
戦争を描いた映画なのに、ここでは戦い、人を殺すための発砲という場面を見ることはない。そして数少ない暴力シーンでは肉体に与えられるものより、心の苦痛のほうがもっと深いということを描いている。その傷は人からの愛では癒すことができず、自分で乗り越えなくてはならない。その辛さの克服というのは何て理不尽な課題なのだろうかと思った。
康夫が死んだ友人の妹と話すため屋根に上ったときに見える青空。僕が今まで映画の中で見た青空の中ではもっとも美しいものだった。監督は今、この青空を描けるほど克服できたのか。そうであって欲しいと願う。